堀辰雄 「木の十字架」 ~ パリ「木の十字架」少年合唱団、Claude Pascal2019年07月07日 09時32分09秒

 1974年の『パリ「木の十字架」少年合唱団』(パリ木)公演へ行った前後に、堀辰雄が立原道造を追悼した「木の十字架」を読んだ。

            *

 そこには堀の結婚のお祝いに立原が贈った、フランス旧教会ラ・クロア・ド・ボア教会小聖歌隊合唱のヴィットリア『アヴェ・マリア』パレストリイナ『贖主の聖母よ』と、クロオド・パスカル少年が独唱したドビュッシィの『もう家もない子等のクリスマス』という2枚のレコードの記載が在った。

            *

 聴いてみたいと思い、オリジナルを探し始め、2009年、インターネット上で、ついに「アヴェ・マリア/贖主の聖母よ」のSP盤を見かけた。

(JA-688-A, JA-688-B)

 その後、私は、それとは違うレーベル・デザインのSP盤を手に入れることが出来た。

(A-1267)

 パスカル少年の方は国外盤で入手した。

(J2339)

(DF1343)

 だが、手元にあるSP盤が作品中の盤と同じものなのか、当時は調べる方法を思い付かず、放置してしまっていた。

            *
 昨秋、コレクションの棚を整理した折に、そのSP盤が出て来てしまって、仕方ないから手に取ってしばらく眺めた。

            *

 堀がレコードを贈られたのは一九三八年だが、実際には、翌年、立原の死後に、深田氏のお宅の蓄音機で初めて聴いたらしい。蓄音機を購入したのはその後のことで、堀は軽井沢で立原を偲びながらレコードを聴いていたようだ。

            *
 SP盤は、パリ木がビクター、パスカル少年のがコロムビアから発売されている。私は、レコード会社へ、レーベルに記された番号から発売期間の問合せをし、両社からは『時代の古いレコードは既に情報が無い』との回答を受け取った。

            *

 次に、パスカル少年と合唱団側の記録から、録音は少年が1933年、パリ木は1934年であることが判ったので、1933年から1938年の間に発売されたレコードを資料から探すことにした。

            *
 野村胡堂・あらえびす記念館(岩手県紫波町)には多数のSP盤と、資料等が存在する。そちらで資料を三冊お借りして2枚のSP盤の記載があるかどうかを確かめた。

            *

 その結果、三冊の資料のうち、『野村レコード・コレクションSPレコード目録(S61・3)』に探していた記載を見つけた。


 Noël des Enfants qui n'ont plus de Maisons 家のない子供たちのクリスマス Pascal(Boy S) Col, J 2339  5345 (P36)。コロムビアから発売されたパスカル少年のレコードが存在していた。

            *
 記念館の館長氏と学芸員の方のお話によると、パスカル少年のSP盤は、あらえびす氏がリアルタイムで購入した盤とのことなので、それが国外盤であることが気にはなったが、時期的にも、堀が手にした盤と同じ可能性があると思われた。であれば、記念館所蔵のパスカル少年のSP盤は、非常に状態の良い、ワン・オーナー盤ということになる。

            *

 パリ木の方については、発売元のビクターが時代によって会社名を変えていたので、レーベルに記載されていた会社名から、最初にネット上で見かけた(JA-688)ではないかと思われた。私のコレクションは戦後の(A-1267)盤だった。

            *
 「木の十字架」作品中のSP盤は『JA-688(フランス旧教会ラ・クロア・ド・ボア教会小聖歌隊)』と『J2339(パスカル少年)』かもしれない。

(フランス旧教会ラ・クロア・ド・ボア教会小聖歌隊)

(クロードパスカル)

 これが45年を経て、私が出した結論だ。

            *

 残念ながら、立原が贈ったレコードの原物は残っていないらしく『堀辰雄文学記念館』が公開している蔵書目録SPレコードのリストにも掲載されていないので、私が出した結論が正しいかどうかは分らない。

            *
 パリ木の演奏は、重く深く暗いが不思議と癒されて心が凪いだ。パスカル少年の方は、弾んだ技巧的な声がやわらかく響いて来た。

 (MARIANNE MELODIE 021018 830)

 今更ではあるが、フランス旧教会ラ・クロア・ド・ボア教会小聖歌隊とは、パリ「木の十字架」少年合唱団のこと。

            *

CHANTS RELIGIEUX (MARIANNE MELODIE 021018 830) rec.1933-1949 / dir. Monseigneur Maillet
9. AVE MARIA (1934).....2:34
19. ALMA REDEMPTORIS (1934).....3:13 

            *

 パリ木の歴史的録音のCDで、2曲は聴くことが出来る。

コメント

_ ヤマチャン ― 2019年08月11日 00時31分39秒

 待ってました!!やっと載せてくれたのですね。しかもあらえびす資料館まで行って調べてくださったとは!
 マイエー神父時代のこんなレコードが戦前に売られていたということにまず驚き、そして結婚祝いにこの二枚を選んだ立原道造のセンスと趣味の高さに、今よりも当時の文化人の見識の高さを思いました。
 東京少年少女合唱団の長谷川新一氏が少年合唱に興味を抱いたきっかけになったのが、ポーロ・アヌイ神父から戦前に、パリ木のレコードなどを聞かせてもらったのがきっかけだったそうです。きっと同じレコードに違いないでしょう。
 nyandaさんの感想も知ることができました。この頃のパリ木の映像はフランス映画「舞踏会の手帳」で見ることができますね。ビクトリアの「大いなる神秘」が歌われてます。偶然このシーンを眼にした時は本当にびっくりしました。
 nyandaさん重ねて御礼をいいます。どうもありがとう!

_ Hetsuji (Nyanda) ― 2019年08月14日 14時33分28秒

ヤマチャンさん、お久しぶりです。
ご訪問とコメントをどうもありがとうございます。
SPレコードにはSPレコードの音の魅力があります。

私はERNEST LOUGH をCDで聴いたときも
33回転で聴いたときもうーん?これが1920年代のベストセラーか程度の感想でしたが、あらえびす記念館のホールで、ERNEST LOUGHのSPを聴いたときに泣きたくなるくらいに感動しました。聴くのは、オリジナルを当時の媒体で、に限ります。復刻盤は、どうあがいてもオリジナルには勝てないんじゃないでしょうか。(あらえびす氏の遺産の高額蓄音機で聴いた訳ではありませんが)

ヤマチャンさんは、堀辰雄の「木の十字架」を読まれましたか?
当時の文化人をほめ過ぎじゃないですか?
立原道造氏が少年合唱とボーイ・ソプラノを選択したことには興味がありますが、クロード・パスカルのSPはあらえびす氏も購入されたみたいで、記念館のコレクションにあるので、当時、流行していたのかもしれません。

どうにかして調べることが出来る方が、2枚のレコードの番号を調べて欲しいです。ヤマチャンさん、如何ですか? 方法としては、当時のレコード會社が出していた月報があるようなので、首都圏の図書館なら、ありそうな気がします。

WSK、レーゲンス、パリ木等々、SP盤が存在していますし、癒される演奏です。私の望みとしては、SP盤を当時の蓄音機で聴くことですが、入手が難しい。お金もないですが、家族の手前、置く場所もありません。

とりあえず、WSK、レーゲンス、パリ木については手持ちのSPをsounds'Libraryに掲載しましたので、よろしければご訪問願います。
ボーイ・ソプラノのSPも何枚かありますので、これから掲載していきたいです。

これからもどうぞよろしくお願いします。

_ ヤマチャン ― 2019年08月15日 12時55分04秒

 「木の十字架」もちろん読みました。戦前の軽井沢の描写や登場人物たちの運命がわかっているだけに、その静謐な雰囲気と憂愁がそこはかとなく漂う文章に惹かれました。
 堀辰雄がビクトリアやパレストリーナを稚拙な音楽と評しているのには?でしたが、まあ当時はもちろん現在でも聞きなれない音楽ですからしかたないですね。50年代の雑誌ではビバルディを逆に難解だと言っているのを見たことがあります。

 以前にも書きましたが、上野の音楽資料館には少なくとも同じSPがあったようです。小説のレコードと同じかどうかはわかりませんが、同じ演奏であることは間違いないですね。それをnyandaさんがお聞きになり、その感想を知っただけで、私は満足です。

_ Hetsuji (Nyanda) ― 2019年08月15日 16時40分43秒

コメントをどうもありがとうございます。
ヤマチャンさんのコメントを読んで、あらためて、木の十字架中のレコードの追求はここまでで良いのかも、と感じました。

堀氏周辺の方々については、生活感の薄さに、驚かされました。

_ ヤマチャン ― 2020年03月11日 21時50分43秒

 今日はsound library に載っているSPについてこちらで、コメントさせてください。「シューベルトの野ばら」と「ソルベイグの歌」がはいっているものです。
 「のばら」が映画「未完成交響楽」よりと書いてあったそうですが、ひょっとして、パリ木が」吹き替えたのではないかと思います。フランスでは」外国語映画は吹き替えで上映されるのが普通で、「サウンドオブミュージック」はジュリー・アンドリュースの歌までフランス語に吹き替えられてたとか。
もしそうだったらオモシロいですね。「ウィーン少年合唱団」の歌をパリ木が吹き替えているのですから。もしかしたら「コーラス」のオリジナル版の映画でパリ木が歌っていた映画をオーストリアでは、ウィーン少年合唱団が吹き替えているかもと、妄想してしまいます。

_ Hetsuji ― 2020年03月12日 09時19分54秒

ヤマチャンさん、コメントをどうもありがとうございます。
実は・・・わかりません。
映画のクレジットにあるんじゃないか、パンフにあるんじゃないか、とか考えますが、今のところ、打つ手無しです。

何かありますでしょうか?

_ ヤマチャン ― 2020年03月13日 00時13分10秒

 何かあるとすれば、パリ木のホームページでしょうけどgoogle翻訳で調べる気がしません。でもその可能性大だと勝手に思ってます!

_ Hetsuji ― 2020年03月14日 01時57分10秒

題材が同じで内容の違うタイトルも微妙に違う映画が2作品あるようです。

_ セルリアンブルー ― 2021年08月29日 18時01分50秒

 小生は立原道造の長崎紀行を読んでいて、作中に言及された映画「舞踏会の手帳」についての一節に気をひかれ調べようとして、こちらにたどり着きました。思いがけずも、立原道造が堀辰雄に送った、かの伝説的なレコードについて探究されており、大いに驚き感心しました。 
 立原道造は、1938年本邦公開された上記映画を同年晩秋の長崎行き前に観たと思われますが、“ヤマチャン”様のコメントに、パリ木の映像が同映画で見られ、ビクトリアの「大いなる神秘」が歌われていると言及があり、たいへん興味深い連関が拝察されました。

_ Hetjuji ― 2021年09月03日 19時37分31秒

セルリアンブルー様
ご訪問とコメントをどうもありがとうございました。少年合唱ファンの拙い推理です。研究者の方が、現物を発掘していただけたら有難いのですが。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
スパムコメント対策です。
コメントの上の欄に  少年合唱 の文字を入力願います。

  少年合唱

コメント:

トラックバック