ボーイ・ソプラノ 素そのものの神聖 Saul Quirke ソール・カーク ~ ウェストミンスター大聖堂聖歌隊2008年09月28日 20時55分33秒

ウェストミンスター大聖堂聖歌隊

ALLEGRI:MISERERE
WESTMINSTER CATHEDRAL CHOIR/CLEOBURY (ARGO 410 005-2ZH) 1982年6月録音。

 '84年にNHK・FMで聴いて以来、私にとって 「生涯の音」 になった Miserere mei(Allegri)  treble: Saul Quirke をこのCDは収録している。

 このMISERERE 洗練からは、もしかしたら遠く、どこか、はかなげで寂しげ。

 淡々と実直で素朴な合唱と、切なく胸を締め付けるようなボーイ・ソプラノ ソール・カークの声との 立体交差が、演奏に技術を超えた「神聖さ」をかもし出している。

 録音年月日を見て意外だった。

 私がレッジャー氏指揮 ケンブリッジ・キングズ・カレッジ合唱隊のコンサートに、のこのこ出掛けて、究極のヤスリかけともいえる音にショックを受けるほんの1ヶ月前に、そのレッジャー氏後任の指揮者になるクレオベリー氏は、本国でかくもおだやかで心やさしい音色を紡ぎだしていたのだ。

 Jubilate Deoの、出だしのTrebleたちがJu・bi・la・te・Deと歌い出す音の可愛さったらない。滴る雫たちがやがて集まって流れていくように、最後にはすべてのパートが揃っての大きな流れになるのも、みごとだ。

 音色は一枚岩のごとく一つに聞こえるが、個々の声を殺すヤスリかけを全く感じさせない。そういう乾いた感じはなく、つやつやした甘い蜜で、丸い音の表面をコーティングしたように聞こえる。そして、気持ちよいほど、どの曲の演奏も、かなしく美しい。

 残された録音の好みから、私にとっての、キングス・カレッジは、レッジャー氏まで。
 正直言って、その後の録音には、もう興味が薄い。

 こんな録音を残せるなら、出来れば、この指揮者には、いつまでも、この聖歌隊で、この音をずっと紡ぎだしていて欲しかった。