ウィーン少年合唱団 「マタイ受難曲」 ~ アーノンクールの美意識と少年合唱美が結実した理想的な盤2009年03月21日 21時51分03秒

ウィーン少年合唱団

JOHANN SEBASTIAN BACH:Matthaus-Passion BWV 224(TELEFUNKEN6.35047)

First complete recording with the original scoring and instruments

Concentus musicus Wien NIKOLAUS HARNONCOURT

(P)1971

Kurt Equiluz        Tenor I(Evangelist)
Karl Ridderbusch     Bass(Christus)
Wiener Sangerknaben  Sopran
Paul Esswood        Altus I
Tom Sutcliffe         Altus
James Bowman       Altus II
Nigel Rogers         TenorII
Max van Egmond       Bass I
Michael Schopper      Bass II


Wiener Sangerknaben choirmaster: Hans Gillesberger
Knabenstimmen des Regensburger Domchor choirmaster:Christoph Lickleder
Mannerstimmen des King's College Choir Cambriger Conductor:David Willcocks

おそらくは完全盤で、4枚組LPです。
様々な合唱団のマタイを聴いた後での、聴き直しのアーノンクールは、テンポも速く、音も華麗。
オリジナルの楽譜と楽器による最初の完全録音、とありましたが、オリジナル曲って、こんなにオシャレでスマートだったんでしょうか?バッハの時代に行って聴いてみたいものです。このスーパー・クール!な演奏を。

抜粋盤で聴いたときは上手だけれど、心にぐっと来ない、なんて感じたものでしたが、今回は、ただただ抜群に上手!に聴こえました。

アルトソロを男声、ソプラノソロがウィーン少年合唱団員で、少年合唱はレーゲンスブルク、男声合唱がキングスカレッジという編制なのも当時はここまでやるの?とか思ったものでしたが、なんのその、です。

声をキレイに作り過ぎたアルトのPaul Esswoodさんは最初のところ、ちょっと違うんじゃないかな~と思ったけれど、何より誰より、名前を記載されていないウィーン少年合唱団員くんのソプラノソロがとにかく圧倒的に素晴らしすぎ。
聞き手に有無を言わせない「華」と「艶」のある声を聴かせているのです。
もう一人の団員くんも上手いけれど、声に曇り(人間的な温もり?)があるのがちと残念。

合唱やコラールを受け持つ少年合唱+男声合唱も完璧に超麗しい。器楽演奏は言うまでもありません。

ここまで来ると、マタイは、「人間的で情に溢れ、ドロドロしていてカッコ悪くて切実という私の先入観」なんかどうでも良くなるものなんです。
合唱に体温が欠けているのなんか関係ない。
この冷たさが少年合唱の心地よさなんだから、なんて思ってしまうのです。
その合唱に男声ソロと木管ソロが絡むと、まばゆさに眼(耳)がくらみそうになる。・・・これがマタイの世界? 
あまりに麗しくカッコよすぎでまるで別の曲を聴いているかのようです。

コラールは総じて、冷涼系の少年合唱成分が加わることで神の世界のシステムの厳しさが表現されているように思います。でもレーゲンスの声の彩は単に冷たいだけではないところがミソ。

第1部の最終コラールを聴きながらも27曲で歌われたソプラノとアルトの重唱のあまりの美しさの余韻に茫然としてしまいました。キリちゃんが捕らえられたので悲しみに月も星も姿を消したというくだりですが、月よりも星よりもボーイ・ソプラノが美しすぎる・・・。
(もしかしたら私ってば、アーノンクールが好きかもしれない・・・)

群衆に紛れてキリちゃんを追い見守る女性という設定は、30曲のアリアからも感じてしまうのですが・・・拡大解釈・・・。

・・・ただし全体に美しすぎるので・・・。キリちゃんをなぶる群集のところからは、少年声を抜いて欲しかったかもしれません。
普通の民衆と天や天使の成分が入っているコラールの部分は聴こえてくる合唱も違って良いんじゃないかと思うので。この件に関しては、全体を通してそう感じました。

ところで、問題のペーちゃんがキリちゃんを知らないと3回否定するシーンに出てくる女中さん、この盤ではすんごく可愛いです。ソロしているのはウィーン少年合唱団員くんかもしれないし、レーゲンスブルク大聖堂聖歌隊員くんかもしれないですが、悪気無くてとっても良いです。
ピラトの奥さんもソロしているのでウィーン少年合唱団員くんでしょう。こっちは心持ち女性の艶が欲しいところ。

さて問題の39曲のアルトのアリア Erbarme dich, ですが、ペーちゃんが歌うのではなくてアルトなのは、私も「普遍性」のためだと思います。

ペーちゃんの名誉のために付け加えますが、ペーちゃんは言ったのでなくて予言が成就するために「言わされた」のですから絶対にこんな歌は歌いません。と思います。
(ペーちゃん、いつか、黄金の光がふりそそぐ芝生の上で、いっしょに日向ぼっこしようね~。)

ここのアルトはキリちゃんをそういう立場に追いやった人間全体、存在そのものの悲しさだと思います。歌っているのはガリラヤから従ってきたマグダラのマリアさん。(←私の中では)

第48曲49曲の美味しい曲は残念ながら曇り声のソプラノ君。天使ではなくて人間サイドで歌ったという解釈かと思われます。が、冷徹な天使サイドのソプラノを聴きたかったな~。

52曲のアルトアリアは誰だろう?なんだか気になってしまう。(トムさんかジェームズさんか、なんだか好きな声)
本当はこの曲、心から濁流のごとく血を流して歌って欲しいところなんですが、声が好きなのでドロドロしていないけれど許してしまいました。あっさりはしているけれど弦楽器の音とともに伝わってくるアルトなので。・・・ここもまた聴き所です。

同じく聴き所の54曲のコラール。合唱の清らかさが生きるところでもあります。

67曲のレチタティーヴォが合唱をはさんでバス、テノール、アルト、ソプラノとトーンを上げていって、終曲の合唱で少年声の効いた音色で締める演出もなかなかです。

通して聴いた印象では、アーノンクールのマタイは、濁ったいろいろな要素は沈殿させて、上澄みのように透き通った部分を掬っているかのようで、劇的な感情の動きは無いものの、抑制によって気品高く、でも、悲しみがヴェールのように浮かび上がってくるようでした。

アーノンクールの美意識と、少年合唱美が結実したファンにとっては理想的なマタイだったような気がします。

コメント

_ (未記入) ― 2009年03月23日 00時28分43秒

はじめまして、にゃんだ様。
テルツのマタイ受難曲の一曲をたまたま聴く機会がありまして、遅ればせながら、その古さを感じさせない迫力に衝撃を受けてしまい、ネットで色々調べていたところ、にゃんだ様のブログにたどりついてしましました!
アーノンクールと70年代のウィーン少、そしてレーゲンスとキングス・・・。なんだかもうそれだけで、よだれが出そうな組み合わせですね☆
私はまだマタイを全曲通して聴いたことがなく、曲の長さからちょっと尻込みしていたのですけれど、俄然勇気(?)が沸いてきました。
チャレンジしてみます!!
にゃんだ様の鋭く深く、少年合唱の愛にあふれたブログをこれからも楽しみに拝見させて頂きますね☆

_ Nyanda ― 2009年03月27日 20時32分30秒

コメントをどうもありがとうございます。

ホントによだれが出そうな編制なんですが、当時は、ちょっと聴いただけでパスして、数十年、放り投げていた事実もお知らせしておきます。

ですが、名無しのウィーン少年合唱団員くんの ソプラノのアリア Blute nur, du liebes Herz! 1曲を聴くだけでも、この盤のマタイを聴くことによって消滅する人生の数時間に十二分に値すると私は思っています。

なお、丹念にウィーン少年合唱団の録音を収集し聴き続けているCHOIR友だちによると、このソリストくんは、ステッファニのスタバトでも歌っている、とのことです。

盤だけはキープしつつも、まだ聴いていない私の未来の楽しみでもあるソリストくんです。

ぜひ又どうぞ、お越しになり、良い録音盤などありましたら、コメントでお知らせください。

どうぞよろしくお願い致します。

_ じゅにっち ― 2009年04月03日 10時32分09秒

先日は名前も書かずコメントしてしまい、ごめんなさい。

早速、マタイの全曲に挑戦しておりまして、最初にリヒター版、次にテルツ版、そしてアーノンクール版と聴き比べていく予定でおります。
ですが、ウィーン少年合唱団のソプラノのアリアBlute nur~だけは、どうしても待ちきれず、最初に聴いてしまいました。
本当に、すばらしいです!!
なんというか、瞑想中(やったことはないんですが)に聞こえてきそうな歌声です。人生を振り返りたくなるというか。。。

ステッファニのスタバトも歌っているのですか?間違いなく、名盤の予感がしますね☆
私もぜひ拝聴したくなり、探してみたのですが、見つかりませんでした。
ニャンダ様はどちらで入手されたのですか?もしよければ、教えて下さい。

_ Nyanda ― 2009年04月03日 22時38分15秒

じゅにっち様

どうもありがとうございます。
ところで、CDで聴いておいでですか?
Blute nur~の次は、27曲で歌われたソプラノとアルトの重唱(月よりも星よりも美しいボーイ・ソプラノ)ですよ。

スタバトは私の場合 CHOIR友だち経由です。

でも、前に、yahooで、割合、安く落札されているのを見ました。丹念にチェックしていたら、出会うかもしれません。

ウィーン少年合唱団については、オペラでも、聴き応えを感じる録音が残されていると思うので、お互い、丹念に拾い聴きして行きましょう。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
スパムコメント対策です。
コメントの上の欄に  少年合唱 の文字を入力願います。

  少年合唱

コメント:

トラックバック