ウィーン少年合唱団 ~ 天使ではなく人間の男の子っぽさを感じさせた頃の合唱2008年11月01日 16時17分40秒

ウィーン少年合唱団

Wiener Sangerknaben Wander-und Abendlieder (PHILIPS CLUB-SONDERAUFLAGE E 55 301)
Leitung::Ferdinand Grossmann

 1962年か?と思ったのは、最初の曲Wem Gott will rechfe Gunst erweisenが、映画「青きドナウ」で聴いた合唱と音が似ていると思ったからです。その前後じゃないのかなあ? 何度か聴いているうちに自信は失せましたが。

 「艶」の時代でもなく、「繊細」の時代でもなく、ウィーン少年合唱団にしては、合唱に、珍しくも、天使ではなくて人間の男の子っぽさを感じさせた時代の合唱がこの盤には収録されています。
 そこが私の中で「青きドナウ」と重なってしまいます。音質も、どこか厚み(曖昧さ)があり、そこも私の記憶に残っている映画の中のウィーン少年合唱団の合唱と重なるんですよね。

 さてこの盤、単にそういう編集に過ぎないのか、曲と曲に切れ目がなく、数珠繋ぎですが、曲によって金管やハープ等シンプルな楽器との連携が、アクセントになっています。全体的には一体感があり飽きない作りにはなっていますが、ちょっと目を離してしまうと、昨今、どの少年CHOIRでも聴けないようなソロにハッとしても・・・情けないことに曲名すらわかりません。私は追求しようなんていう熱意と根性のあるファンでもありませんし。

 にしても、メゾソプラノかアルトなのか知りませんが、微妙に声の高さの違う素晴らしいソリストがソプラノくんもいれて3人は居るように感じます。

 当時の方針なのか、ソリスト名が記されていないのが残念ですが。Singsang und klingklangのアルト君は誰? Weisst du wieviel Sterne stehenのソプラノ君は誰? 
 (ソリスト名が無い分、ウィーン少年合唱団ソリストの声ということで普遍的なんでしょうが、演奏した少年やご家族からすると勿体無いことです)

 もしもドナウ時代前後の録音だとしたら、アルバムカバーに紋章が無いので、写真は紋章以前(1961年以前なそうです)ということですか。

 2面の方は、元気な男の子がちょっぴり貴公子予備軍になってしまう。
 これはウィーン少年合唱団の看板音源でもありますから、後に、もっとシャープな時代のレコードや曲によってはCDにもリアルな音で収録されているとは思いますが、心持ちふわっと輪郭の微妙に甘いやさしい音で聴くことが出来るこの盤は、私にとってそれだけで価値のある1枚です。

ウィーン少年合唱団 ~ 「ウィーン少年合唱団員」であること2008年11月01日 19時25分26秒

ウィーン少年合唱団

Die schonsten Lieder mit den Wiener Sangerknaben (PHILIPS STEREO 5454512)
Dir.Ferdinand Grossmann

 たぶんこの盤は、Wiener Sangerknaben Wander-und Abendlieder (PHILIPS CLUB-SONDERAUFLAGE E 55 301) と同音源です。

 なぜ「たぶん」などというかと言うと、この盤、ちょっぴりレコードが薄くなって、音がシャープに、そしてとてもクリアになりました。CD世代に近い音、かもしれません。

 元気さが鳴りを潜め、優美さが目立ちます。

 ソプラノが決してファルセットに逃げない。音が揃い、切れが良く、どこまでも涼しい音。

 共演の楽器がプロの演奏者であるのと同じく、プロの「少年合唱」を聴かせる合唱団。
 この頃の歌声からは、ウィーン少年合唱団員であること イコール プロの演奏者であることの誇りと実力が伝わって来るようです。

ウィーン少年合唱団 ~ 水か風のように清らかで冷たく美しい音2008年11月01日 21時34分13秒

ウィーン少年合唱団

J.S.BACH: JOHANNES-PASSION / HARNONCOURT (6.48232 2LPs)
Leitung:Hans Gillesberger

 2面と3面、特に2面の方は男声ソリストの出番ばかりがほとんどでつい退屈してしまった。(上手なんだろうけれどタイプではないので=私は単にミーハーファン)

 ぼ~っと3面の合唱をきれいな女声だなあ・・・と聴いてしまって、あれ、これウィーン少年合唱団だったんだ、と思い直したりして。ということは、少年声は女声に引けを取らないということなんだ。また男声ソロになってぼ~っ。だけど、3面の17分頃からB-Sソロが始まるとハッと目が覚めたりして・・・やはり、ミーハー。

  このソロは5分くらい続く。ホケ~っと聞き流すと、決して子どもではなく、少年でもなく、女でもなく・・・B-Sは実に不思議だ。声が「華」に変貌しそうな予感も内包しているし。(実際には華への予感だけで終える声が99%だとしても)

  4面の2分くらいにも同じくB-Sソロがあるが、こちらはキィも更に高い。女声なら身体を揺すって体力に任せて音を出す感じを受けるのだが、B-Sは淡々と歌っている。特に高い音のところで切なく途切れるかなと思ったが、スッと歌いきった。

  B-Sと男声を聴いて思う。大人の声は(女声もだが)生々しいのが聴いていて疲れる。

  この頃、というよりもしかしたらギルレスベルガー教授が作る合唱は、生々しくないのだ。そして人間の体温の生々しい温かさを感じさせない合唱なのだ。
 水か風のように清らかで冷たく美しい。他の合唱団にはないこの合唱、聴く者が感じる、たぶん人肌ではない合唱の温度から、ウィーン少年合唱団の合唱は「天から降り注ぐ声」と形容されるようになったんだろうと、ふと思った。

 20年ほど前、仲良くしていたかなり年下の(と言っても、ファン歴は私よりも長く密度の濃い聴き方をしていた筋金入りの)CHOIRファンから「下手だけれどあげる」とレーゲンスのヨハネをもらったことがある。

 どちらかというと彼女はたぶんクロイツやトーマス教会等といったドイツの聖歌隊が好きらしくて決してウィーン少年合唱団信望者ではなかったと思うのだが、当時、レーゲンスよりはウィーン少のヨハネ、テルツよりもウィーン少のドイツミサに軍配をあげていた。
 ウィーン少年合唱団の演奏が、こうして聴きなおしてみても、作品として「整った」合唱だったことによるのではないか、と今、思ったりする。

 「バイエルンの天使」ではヨハネのことを「(B-S)ソロの多い曲」と表現している場面があるが、この盤では、数的にはソロはそれほど目立つほど多くは感じない。

 聴きどころは、1面の合唱。1面のソロと短いデュエット。3面のソロ。4面のソロ。になる。

 数少ないB-Sソロは、だが、時間的には割と長く、一団員としか名前を記されないが故にその分だけ団の看板を背負ったソリストたち(少なくともソプラノとアルト、各1人はいそう)の名演をたっぷりと心ゆくまで聴くことが出来るのが嬉しい。

 教授が志向した音とアーノンクール氏の相性がピッタリ合って、繊細なヨハネ受難曲を完成させたような気がする。